会社員の持つ職能こそ、副業に活かせるスキル【おけいこ会議】Vol.2
九州電力株式会社「おけいこタウン」サービス事業責任者の田畑耕一氏がゲストとテーマについて対談するシリーズ【おけいこ会議】。第二回は、九州電力で田畑氏と同じ部署に所属し、プロジェクトリーダーの職務を果たしながら、副業でベンチャー企業のプロジェクトマネジメントも行う湯越美紀氏を招き、「会社の社員が行う副業」をテーマに話し合いました。副業の意義とメリット、本業へのフィードバックや両立など話が広がりました。
会社の副業解禁がきっかけ
―湯越さんの現在の本業と副業の仕事内容を教えてください。
湯越美紀(以下、湯越):本業は九州電力のICT事業推進グループで、「九州極みプロジェクト」という新規事業のプロジェクトリーダーをしています。現在取り組んでいるのは九州や日本の文化を国内外の人に体験していただくツーリズムの事業化です。副業では株式会社パラレアルというITベンチャー企業のプロジェクトマネージャーをしています。パラレアルはVRやメタバースを開発する企業で、私の本業の時間外や休日に業務委託契約で仕事をしています。
田畑耕一(以下、田畑):湯越さんは九電の副業解禁の試験的実施制度を利用して副業を始めた第1期生ですよね。
湯越:そうです。2021年に副業解禁の試験的実施のことを知って、すぐに申請しました。「副業申請書」に副業の内容と、副業をすることで本業にどんな効果がもたらされるかを記述して提出し、人事の承認を得ました。
田畑:パラレアルで副業したきっかけは何だったのですか?
湯越:私は2019年にマレーシアへ経済視察ツアーに参加したんです。そこで出会ったのがパラレアルのスタッフの女性でした。ちょうど私が新規事業のプロジェクトを始めたころで、彼女と意気投合して一緒に本業のプロジェクトに関わってもらうことになりました。そうするうちに、私がパラレアルの会社に出入りすることも増え、代表ともよく話をするようになりました。組織の運営とかプロジェクトの進め方などを相談されることがあって、ボランティアでちょくちょくアドバイスをしていたんです。代表からは「副業が解禁されたら、一緒にマネジメントしてほしい」と言われていたので、解禁後、正式に業務委託契約を結んだ、という経緯です。
田畑:マレーシアでの出会いがきっかけだったとは初耳でした。
湯越:そうなんです。副業先とのつながりは以前からありましたし、ボランティアで時々アドバイスをしていたので、それが対価をいただく仕事に変わったという感じですね。
「会社員の職能こそ財産」と副業で実感
―湯越さんが本業のスキルなどで、副業に役立ったものは何ですか?
湯越:副業でつくづく思うのは、本業の会社で学んだことはどこに出しても通じる知識、スキル、ノウハウだということです。これから組織として発展したい会社や、若いベンチャー企業などで、管理体制や業務運営に悩んでいるところに行くと業務改革などのサポートに役立ちます。
田畑:パラレアルにはどんな課題があったのでしょうか?
湯越:パラレアルはまだ若いベンチャー企業で、代表や取締役以外は20代。ITスキルは高いのですが、実務経験、社会経験が浅く、業務の運営や管理などのマネジメント面に不慣れな点がありました。そこで、例えば「虫の目」「鳥の目」「魚の目」ってありますよね。そういう多角的な視点での物事の捉え方を説明したり、実際にスケジュール管理や「報・連・相」などを実地で体験してもらったりして指導しています。こういうマネジメントは、九州電力でやっていることと同じですよね。
田畑:そうですね。そういう指導はたくさん受けてきました。
湯越:マネジメントや運営などは、私たち会社員が長けているスキルなんです。
田畑:私も何か副業をしたいと思っているのですが、今までの会社の仕事は何の役に立つのだろうか、私の専門分野は何だろうか、と自信がありませんでした。今、お話を伺って「そうか、こういうスキルか」と気づきました。
湯越:九州電力の社員からも「会社の中でしか仕事をしていないので自分にはスキルがない」という声を聞きます。それは大きな勘違いで、すごい財産を持っているんですよ。ただ、外の世界で活かせるスキルなのか、どう活かせばよいのかが見えないので、ネガティブな発言になるのでしょう。私は副業で外に出て、本業のスキルをアウトプットすることで人の役に立ち、経済を回す手伝いができると気づきました。また副業で得た新たなインプットを本業で活かすことにより、視野が広がりスキルが向上します。自分の自信にもなるし、次への成長の糧にもなります。だから会社員のスキルを活かした副業はよいことしかないと思っています。
「人とのご縁」が本業にも副業にも生きる
―湯越さんは副業で得たことで、本業にどんなフィードバックをしたいですか?
湯越:私が副業をすることで、本業でやってきたことを再認識することができ、ネットワークが広がり、本業に役立っていると感じています。人とのご縁で仕事ができる時代になって、価値観や意識の合う人と仕事が生まれて、品質もブラッシュアップされました。
田畑:何か事例を教えてください。
湯越:例えば、本業で日本文化のツーリズム事業を実証実験する際に、副業先のパラレアルのネットワークで参加者を紹介してもらうことがありました。私たちが提供したいツーリズムを体験する実証実験で、パラレアルの関係者にプロジェクトの話をすると「面白いね」と共感してくれ、参加者を探している旨を相談すると、マイクロソフトで働いていたアメリカ人のAI専門家や政府機関の大使や領事などにつないでくれました。本業の中だけでは、このような国内外のテクニカルな人たちや海外政府機関の方たちとつながるのは容易ではありません。副業での仲間たちとのネットワークがあったから、持つことができたつながりでした。「人とのご縁」が一番大きいですね。
田畑:昨年の夏に、パラレアルのスタッフにご協力いただいて、おけいこタウンで「夏休み!親子でメタバース職業体験」の先生になってもらいました。湯越さんのネットワークがあったから実現できたことで、つながりの大切さと会社が得るメリットを実感しました。
湯越:パラレアルにおいても、困ったときに本業のつながりを活かして社内の人に相談したりアドバイスをもらったりすることができます。副業をしていない社内の人は、他の会社の動きや、状況を知る機会にもなるし、自分たちのスキルが外で役に立つと実感することもできます。だから、こういう情報や意見を交換する場を持ちたいと社内で話しています。社内、社外、グループ会社、他部門、新規事業の担当などいろいろな人たちと対面で話ができる場を設け、本業にも副業にも互いにフィードバックしたいですね。
フレキシブルな思考と行動で本業と副業を両立
―本業と副業を両立させている湯越さんはどのようなタイムマネジメントをしているのですか?
湯越:1日の生活の話をすると、朝5時半に起床してお風呂に入ります。そうすると体が温まって血行がよくなり、思考を巡らせやすくなるんです。お風呂を沸かす間に掃除や洗濯を済ませ、6時半ごろからストレッチで体をほぐします。そこから家を出る8時半までに、ボランティアの仕事で原稿を書くなどの作業をしています。
田畑:ずいぶんと朝が早いですが、その分、出勤前に約2時間の充実した時間があるんですね。湯越さんの勤務形態はフレックスタイム制ですよね?
湯越:そうです。九電は8時50分始業なので、だいたい9時前後に出社していますが、先に副業先に行くこともあります。その場合はフレックスで10時出社や、時間有給を取って午後から出社することもあります。退勤時間も同様に、17時半が終業なので、17時半以降に副業に行ったり、フレックスで退勤時刻を16時半に早めたりと、日によってフレキシブルな働き方をしています。
田畑:副業は1日何時間くらい仕事をしているのですか?
湯越:内容によりけりです。30分で終わることもあれば、1時間かかることもあります。本業の終業後に自宅でパソコン作業をすることもあるし、土日を使うこともあります。だから決まった時間に働くというわけではないのです。
田畑:副業に時間がかかって本業との両立が難しいときはないのですか?
湯越:本業が主なので、副業の時間を抑えます。ダラダラ時間をかけるのは意味がないので、打ち合わせも時間をあらかじめ何分間と決めて、事前に課題、進捗などアジェンダをまとめ、資料を共有して効率的に行っています。私はここ数年で生活習慣を大きく変えました。朝の入浴、十分な睡眠、野菜、水、塩の摂取を増やし、定期的な体のマッサージも行い、健康への意識が高まっています。しかし、会食や飲み会の企画、参加は大切にしていて、リアルで会って、笑って、未来を語れる時間を大切しています。だから何事も「こうあらねばならない」という固定観念をなくして、健康でイキイキと生きられるようにしたいです。好きなことをするためにも、やはり健康が大切ですよ。
おけいこタウンを会社員の能力発揮の場に
―おけいこタウンを一般の会社員に能力発揮の場として利用してもらうには、どうしたらいいと思いますか?
湯越:会社員が身につけた職能スキルは副業で通用するすごい財産なんです。それをキャリアの棚卸しというか、自分自身の見つめ直しで気づいた人は、おけいこタウンでチャレンジしてみたら面白いんじゃないでしょうか。ここには教えたい人が活用できるプラットフォームがそろっているから、すぐに自分のアウトプットができるし、テスト的にも使えますよね。一般の会社員が副業で何か先生や講師にチャレンジするにはいいところですよ。
田畑:おけいこタウンは、ビジネスのスキルを先生になって活かせる場という構想もあるんです。自分のスキルを教えることでアウトプットしたいけれど、ゼロから立ち上げるのは難しい、という人に対して、講座を開催する場所、集客のPRのお手伝い、受講料の決済を全て任せられるプラットフォームを提供しています。そのコンセプトは、九州各地の人が活躍して、収入も得られて、生き甲斐を持って、幸せになってほしいというところなんです。
湯越:そういう意味では、会社員の副業はすごくおすすめしたいです。思いつきになりますが、会社員がいきなりここでおけいこ先生に登録するのではなく、先生になる前に人の話を聞いたり自分のことを言葉にしたりして、相談し合える場があるといいかもしれません。
田畑:それは面白そうですね。すでにおけいこ先生になった人を集めて懇談会をしたことはあるのですが、その手前の人を対象にした場はまだないです。
湯越:同じ目的を持った人たちが、自分のことを言葉にして、背中を押してもらって、自分の軸を定めていく場になるといいですね。助け合える場っていいですよ。
田畑:いずれそんな場を作りたいです。現状では、先生に登録する一歩を踏み出せないでいる人に、私たちが相談に乗ってサポートしています。気兼ねなくお問い合わせいただき、一緒にアウトプットの場を作っていきたいですね。
終わりに
近年は副業を解禁する企業が増えてきました。各個人が持つ資格や特技を活かして副業で能力を発揮する一方、会社員からは「自分には人に教えるようなスキルはない」という声も聞こえてきます。でも実は会社員が社内外の人と行っている仕事の進め方や知識、調整力などの職能スキルこそ、副業の現場で求められているものです。「自分の職能スキルを他の人にも役立ててほしい」という会社員の人におすすめしたいのが、おけいこタウンです。講座の開催場所の提供や集客のPR、受講料の決済がワンセットになったプラットフォームなので、先生は講座の内容に集中できます。初めて先生になる人でも安心して講座を開けるように、寄り添ったサポートもしているので、副業デビューしたい方にぴったりです。