【解説】個人事業主の開業届に必要な書類や費用まとめ
「個人の仕事が増えてきたから独立したい」「個人事業主として自分の得意なことを仕事にしたい」、いざ開業、と考えると何から始めればいいか分からない。そんな方も多いのではないでしょうか。個人事業主として活動を始めるための手続きはとても簡単ですが、少しだけコツがあります。
この記事では、あなたが個人事業主として活動を始めるためのお手伝いとして、開業届の出し方と記入方法を解説します。この記事を読んで開業届を提出すれば、すぐに仕事を始めることができます。
開業届とは
法人を設立せず個人で事業を行う場合には「開業届」を税務署へ提出する必要があります。税法では、開業届のことを「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、個人事業を開業した日から1ヶ月以内に納税地を所轄する税務署へ届け出る必要があります。
開業届を出していないとどうなるの?
開業届けを提出しないことによる罰則は特にありません。しかし、青色申告による確定申告を行うためには開業届の提出が必須になるので、できる限り提出をおすすめします。
入手方法と必要書類
実際に開業届を提出するには、どうすればいいのでしょうか。開業届を入手する方法と開業届の記入に必要な書類や準備するものについて、順番に解説します。
開業届
まずは、開業届の入手方法です。開業届は最寄りの税務署で受け取る方法と、国税庁のHPでPDFとして入手する方法の2つがあります。どちらも内容は同じなため、自宅で印刷が可能であれば、HPからダウンロードして印刷する方法がおすすめです。
シャチハタ以外の印鑑
印鑑については特に指定がありません。実印である必要もなく、普段、使用している認印でも全く問題ありません。ただし、開業届も立派な公的書類なため、シャチハタなどのスタンプ式印鑑は使用できません。
マイナンバーカード(通知カードも可)
個人事業主として開業する場合は、収入を事業所得として計上することになります。その際、税金とマイナンバーの紐付けが行われるため、マイナンバーカードや通知カードに記載されている「個人番号」を記入する必要があります。
青色申告承認申請書
青色申告により確定申告を行う場合は、開業届と一緒に「青色申告承認申請書」を提出するといいでしょう。提出期限については、1月15日までに事業を開始した場合はその年の3月15日までに、1月16日以降に事業を開始した場合は開業した日から2ヶ月以内に提出することとされていますが、一緒に出す場合は問題ありません。
開業届にかかる費用と提出期限
開業届を提出する際の費用は一切かかりません。ただ、開業届を作成する際に、士業等に依頼をすると、書類作成費用がかかりますのでご注意ください。なお、誰でも開業届が書ける記入方法を後述しますのでご安心ください。
開業届の提出期限については、事業の開始等の事実があった日から1カ月以内となっていますが、遅れたとしても罰則があるわけではありません。
開業届を出すメリット
ここからは、なぜ、開業届を出すことを推奨しているかについて解説します。開業届を出すことで、税制上の優遇を受けたり、私生活と事業を金銭面で区別したりということができます。
事業所得は経費を計上することができる
会社員が片手間で行うセミナーや原稿の執筆は、事業として認められず、「雑所得」して計上する必要があります。しかし、年間を通じて継続的に事業を行っている場合は「事業所得」として所得を申告することができます。
【保存版】個人事業主の経費はどこまで認められる? 種類ごとに一覧紹介
開業届を出すことで、事業所得を申告できるわけではありませんが、事業として必要な経費の幅が広がるので、計上できる経費の幅も広がります。商品の仕入代金である売上原価等はもちろんのこと、仕事を得るためにかかった交際費や、業務のために借りている事務所や教室の家賃も経費として申告することが可能です。
屋号名義の口座を開設することができる
事業所得の経費を計上する際は、その経費が「業務のために必要であった」と説明できることが大切です。普段、使用する口座と個人事業のために使用する口座を分けておくことで、業務にかかる経費としての説得力が増すため、特別な理由がない限りは、屋号等の名義で事業用口座を開設することをおすすめします。
青色申告控除が適用される
特に申告をせずに確定申告をする場合は「白色申告」という扱いになり、売上や経費を申告するために必要な記帳は「収支内訳書」という簡易な記帳方法で完了となります。ただし、白色申告では、税制面での控除が適用されません。
青色申告って何?白色申告とは何が違う?メリットやデメリットについても詳しく解説
一方で「青色申告承認申請書」を提出すれば、税制面で多くのメリットを受けることができます。複式簿記による記帳を行うことで65万円の控除が適用されることや、家族で事業を行っている場合には「青色事業専従者給与」が適用されるので、配偶者や親族に対して支払う給与を必要経費として所得から控除することが可能になります。
開業届を出す際の注意点
開業届を提出する際に、いくつか注意しておきたいことを解説します。
控えはきちんと保管しておくこと
個人事業主は会社のように法人登記を行うことがないので、開業していることを証明する書類がありません。そのため、屋号を用いて銀行口座を開設する場合や、クレジットカードを作る際に「開業届の控えを証明書として使用する」ことになります。
開業届を紛失してしまった場合は、税務署で「保有個人情報開示請求書」を提出すれば、手数料(300円)を支払うことで開業届のコピーがもらえますが、できる限り保管しておきたいところです。
提出する際の職業に応じて税率が異なる
開業届を提出する際、選択した職業に応じて適用される税率が異なります。事業税の対象になる業種は全部で70種類、業種によって3~5%の事業税がかかります。開業届の職業欄に「職業」と「事業の概要」を記入する場所があるので、自分の主な収入源としている職業を書きましょう。
開業届の書き方を解説
最後に、開業届の書き方を上から順番に解説していきます。
(1)納税地の税務署名と提出日
開業届を提出する”所轄の税務署と提出する日付”を記入します。提出する日付は事業の開始日から1ヶ月以内とされていますが、過ぎていても特に問題ありません。
(2)「納税地」「上記以外の住所地・事業所等」
納税地
住所地/居住地/事業所等のうちどれかを選択したうえで、納税地の住所を記入します。電話番号は個人の携帯番号でもかまいません。
上記以外の住所地、事業所等
納税地を事業所ではなく自宅にしたい場合など、使用したい住所が納税地と異なる
場合に記入します。自宅を事業所として使用するような場合は記入する必要はありません。
(3)「氏名」「印鑑」「生年月日」
氏名(フルネーム)とフリガナを記入し、押印します。印鑑に指定はないので個人印でも屋号印でも構いません。その後、自身の生年月日を記入しましょう。
(4)個人番号
マイナンバーカード、もしくは通知カードに記載されているマイナンバーを記入します。
(5)職業
自分の職業を記入します。書き方に決まりはありませんが、当てはまるものがあれば、個人事業税の「法定業種と税率」に記載されている職業を選択するといいでしょう。ただし、すべての業種が記載されているわけではありません。自分の職業が法定業種のどれに当たるかは確認しておきたいところです。
(6)屋号
請求書や銀行口座で使用したい屋号があれば記入します。なければ記入しなくても構いません。
(7)届出の区分
今回の場合は開業にチェックをするだけで構いませんが、もし、事業の引継ぎを受けた場合は、その人の氏名と住所を記入してください。
(8)所得の種類
今回の場合は「事業所得」をチェックします。なお、不動産から所得を得る場合は「不動産所得」を、山林による所得を得る場合は「山林所得」にチェックします。
(9)開業・廃業等日
新たに事業を始めた日を記入します。まだ事業を始めていない場合は、開業届を提出する日を開業日とします。
(10)「事業所等を新増設、移転、廃止した場合」「廃業の自由が法人の設立に伴うものである場合」
新規開業の場合、記入する必要はありません。
(11)開業・廃業に伴う届出書の提出の有無
開業届と合わせて「青色申告承認申請書」や「課税事業者選択届出書」を提出する場合は”有”にチェックをします。
(12)事業の概要
どのような事業を行うのか(行っているのか)を詳しく記入します。誰が読んでも分かるように記入するといいでしょう。講師業であれば、「簿記などの金融資格を、試験合格を目的として教える」また絵画教室の先生であれば、「自分らしい絵が描けるように教える」といったように書くといいでしょう。
(13)給与等の支払状況
従業員を雇用する場合に記入します。家族を雇用する場合は「専従者」として、家族以外の従業員を雇用するのであれば「使用人」として数えます。
従事者数
専従者、使用人の雇用する人数をそれぞれ記入します。
給与の定め方
時給●●円、日給●●円、月給●●円のように給与の支払い方法を記入します。またボーナスの支払い予定がある場合、併せて記入しましょう。
税額の有無
源泉徴収する場合は「有」、しない場合は「無」をチェックしますが、給与を支払う場合は基本的に源泉徴収をすることになるので、雇用する予定がある場合は”有”をチェックしましょう。
(14)「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」の提出について
源泉徴収は、原則として給与を支払った日の翌月10日までに納付しなければなりません。従業員数が10人未満の場合は、特例として年2回にまとめて納付することができます。特例を利用する場合は申請書を提出する必要があるので、”有”を選択して開業届と併せて提出しましょう。
(15)給与支払いを開始する年月日
従業員に対して給与支払いを開始する日(予定日)を記入します。すでに支払っている場合は、その日付を記入しましょう。
(16)開業届の作成を税理士に依頼する場合
税理士に依頼するような場合は、税理士の氏名と電話番号を記入します。
まとめ
ここまで、個人事業主として初めて開業する人でも、すぐに開業届が書けるように解説してきました。
開業届を提出する瞬間はすごく緊張しますが、これは、あくまでスタートです。この記事を読んだことが、人生を好転させるきっかけになりますように。