個人事業主の税金は何種類でいくらくらい?サクッとわかる基礎知識
事業を始めたら、避けて通れないことのひとつが「納税」です。
売上や利益が伸びていくのはうれしいことですが、なかには「稼いだお金、パーッと使っちゃおう!」と散財してしまい、税金のことをすっかり忘れていて大変なことに……という方も。
「開業届を提出して、順調に売上も増えてきた。うれしいけれど税金はどれくらいになるのか不安」とお悩みの方に、知っておくべき「個人事業主の税金の種類・基礎知識」をお届けします。
個人事業主が支払う税金の種類と計算方法
ひとくちに「税金」と言っても、所得の種類や個人や法人の違いによって、納めるべき税金の種類は異なります。
まずは、事業所得(収入から経費を除いたもの)を得る個人事業主が納める税金の種類と、税額の目安がわかる税率を確認しましょう。
個人事業主と関係がある税金の種類
個人事業主と関係がある税金の種類は、主に5種類です。個人事業主であり、さらに不動産所得がある、金融資産を持っている……というケースもありますが、今回は「事業所得以外の収入はない個人事業主」を想定してピックアップしました。
下記に紹介する5種類は、下に進むほど「より高い所得/収入を得ている人が支払わなくてはならない税金」の順番で並べています。
社会保険料
こちらは「税金」ではありませんが、「公のサービスを支えるための費用」という観点から、税金と併せてご紹介します。
個人事業主の場合、基本的に住所地の自治体の国民健康保険に加入します。また、特定の分野で活動する個人が加入できる健康保険組合という選択肢もあります。
保険料は、加入する組合によって金額が異なります。
例えば、福岡市の40歳未満の世帯の場合、
総所得金額(控除前の金額)-基礎控除33万円を除いた金額の
- 医療分 ×7.82%
- 支援分 ×3.05%
計 10.87%と、均等割、世帯割額分を負担します。
ただし、賦課限度額(負担の上限のこと)が決まっており、どんなに所得が大きくなっても
①医療分 63万円 + ②支援分 19万円 =82万円
が最高額です。
40歳以上の方は、上記とは別に介護分が加わります。
住民税
1月1日の住所地(住民票のある住所)で課税される地方税(市民税+県民税)です。各種控除後の金額に10%の税率が適用される所得割と、自治体によって金額が異なる均等割があります。
福岡市の場合、均等割額は市民税4,000円、県民税2,500円(令和5年度まで)です。
所得税
いわゆる「確定申告」によって申告するのが、国税である所得税です。国民健康保険料や住民税の申告も、所得税の確定申告をすることによって一緒に手続きされます。
所得税の税率は、株式などの分離課税に対するものなどを除いて、5%から45%の7段階です。
個人事業主の場合、住民税と所得税を合わせると最大で55%の税率になるため、所得が大きくなった段階で法人化(会社化)し、最大税率が低い法人税に移行するようなかたちを「法人成り」と呼びます。
個人事業税
一般には、なじみのない個人事業税。分類としては都道府県民税(地方税)です。確定申告と同時に処理されます。ただし、すべての個人事業主が納税するわけではありません。
まず、「事業主控除」があり、1年間で290万円が控除されます。つまり、所得が290万円を上回った場合納める税金です。
税率は業種によって3%~5%、一部、著述業など個人事業税の対象外の業種もあります。いわゆる「講師」の場合、諸芸師匠業に分類され5%です。
所得税や住民税と異なり、全額が「事業のための経費」として経費算入できます。
消費税
消費税は、上記4つとは異なり、「利益」である所得によって課税が決まるものではありません。消費税は、事業者が消費者から預かって納税するものです。消費者から受け取った消費税から、仕入れにかかった消費税を差し引いて納税します。
ただし、このとき前々年の「課税売上高」が1,000万円を超えない場合は「免税事業者」として消費税の納税が免除されます。
消費税はほかの税と異なり、「所得(売上―経費)」ではなく、「収入(売上)」で納税義務を判断するということに注意が必要です。
個人事業主はどれくらい所得税を納税しているの?
「いわゆる個人事業主は、どのくらい税金を納めているのだろう……。」と気になったことはありませんか?
国税庁が毎年集計する「申告所得税標本調査(16P 第22表)」(令和元年)によると、個人事業主(事業所得者)の平均所得は425万円、平均所得税額は50万4000円でした。
ただし、「納税者数の構成割合(7P)」で見れば、
事業所得100万円以下…10.8%
100万円超200万円以下…25.7%
200万円超300万円以下…21.2%
300万円超500万円以下…22.5%
500万円超…19.8%
このような構成になっており、一部の高額所得者が平均を押し上げていることがわかります。また、この集計では「還付申告をする課税所得0の個人事業主」は集計されていないため、個人事業主のすそ野は実はもっと広いのです。
参考:「国税庁」令和元年
個人事業主が対応するべき納税までのステップ
個人事業主として、初めての納税に対応する場合のステップを確認しましょう。
開業届の提出
事業を開始した場合、開業から1ヶ月以内に納税地の税務署に届け出ます。
青色申告承認申請書の提出
開業届提出と同時に、青色申告承認申請書も提出しましょう。青色申告を行うことで、最大で65万円の控除を受けることができます。
マイナンバーカードの取得
上記の青色申告を行う上で、取得すると便利なのがマイナンバーカードです。ほかにも、事業を行う上で、印鑑証明や住民票の提出など公のサービスを活用する機会が増える場合、便利です。
年始(開業日)から年末までの「1年間」の経理処理
個人事業主は1月1日から12月31日という1年間を単位にして申告します。確定申告時期に慌てることがないよう、こまめな記帳を意識しましょう。クラウド型青色申告サービスの利用が便利です。
確定申告
通常、毎年2月16日~3月15日の間に申告します。なお、2021年は新型コロナウイルスの影響で4月15日まで延長となりました。
講師やスクール運営タイプの個人事業主が「最初に気になる疑問」
最後に、おけいこごとの講師や、スクールを運営する個人事業主のみなさんが「気になる疑問」を紹介します!
・今はヨガスクールで働いていますが、本業を辞めないと個人事業主にはなれない?
給与所得者として働きながら、個人事業主として開業することももちろん可能です。ただし、勤め先での「兼業禁止規定」には注意が必要です。
・昼は暗記レッスン講師、夜は塾講師!副業と本業はどうやって決まるの?
本業と副業に法律的な定義はありません。一般的には、所得がより多い方を「本業」とするケースが多いでしょう。 上記でご紹介した「申告所得税標本調査」では、所得が多い方を集計に利用しています。
・スムーズな納税のために準備しておくことは?
事業用の銀行口座やクレジットカードなど、プライベートでのお金と事業経費のためのお金をはじめから分けておくと管理がスムーズです。
・教室づくりにお金をかけすぎちゃった……赤字でも確定申告は必要?
原則として、所得税がかからない場合、確定申告の義務はありません。ただし、翌年以降の所得に対して、赤字を繰り越せる青色申告の特例を適用したり、住民税や社会保険料の申告が別で必要になったりと、赤字であっても確定申告することにメリットがあります。
まとめ
多くの方にとって、はじめての確定申告は気が重くなりがちな作業です。
しかし、確定申告に必要な各種書類作成をサポートするクラウド型確定申告作成ツールをはじめ、税務署での相談会、税理士が開設するYouTubeなど、「経理や簿記の知識は全くない」という方でも自力で確定申告にチャレンジできる環境が、ここ数年で大きく進化しました。
売上が大きくなれば、”個人事業税や消費税など、今までの生活の中でなじみのなかった税金の納税義務が生じる”ことになります。
その税額を負担するほど所得が大きくなったころには、顧問税理士に税務相談に乗ってもらいながら作業をお任せすることもできるようになるかもしれません。
「開業はしたけれど、売上はまだ大きいものではない」うちに、確定申告と経理の作業について学んでおくことも大切なことです。早めの行動で、余裕をもって確定申告に取り組みましょう!
【監修者プロフィール】
服部 大(はっとり だい):税理士/中小企業診断士
2020年2月30歳のときに名古屋市内で税理士事務所を開業。平均年齢が60歳を超える税理士業界では数少ない若手税理士。
単発の税務相談や執筆活動なども行い「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。同年代の経営者やフリーランス、副業に取り組む方々の良き相談相手となれるよう日々奮闘中。
服部大税理士事務所:https://zeirishihattori.com