個人事業主のクレジットカードは使い分けするべき?使い分けのメリットとデメリットは何?

個人事業主として独立しようと考えている人は、国民年金への加入や開業届の提出など、必要な手続きが多くて驚くのではないでしょうか。また、経費の支払い方法として、事業用のクレジットカードを作成すべきか悩んでいる人も少なくありません。
そこで今回は、独立した際に事業用のクレジットカードを作成すべき理由をご紹介します。特に、青色申告を選択している事業主は個人と事業のカードを区別することで、帳簿の作成がスムーズになるのでぜひ参考にしてください。
クレジットカードを分けるメリット
ここからはクレジットカードを分けるメリットについてご紹介します。
個人利用と経費を区別できるので経理処理の手間が半減する
クレジットカードを分けるべき理由の一つは、経理処理をシンプルにすることです。特に、青色申告を選択している場合は、最高65万円の青色申告特別控除の要件として複式簿記を用いた帳簿付けが必要になります。
「青色申告」に関しての記事は下記にてご紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
青色申告って何?白色申告とは何が違う?メリットやデメリットについても詳しく解説
複式簿記では個人と事業の口座や支払いが混在していると、日用品の購入等に対しても経理処理が必要になるため、非常に手間がかかります。経理処理の手間を軽減するために、口座・支払いを分けてはいかがでしょうか。詳しい経理処理については後ほどご紹介します。
ソフトの連携が簡単になる
また、複数の口座・クレジットカードを使用している場合、会計ソフトの連携も複数必要になるので日々の仕訳が複雑になってしまいます。ソフトの連携を簡略化する意味でも、報酬の受取先や経費の支払い方法は個人利用のものと事業用のものとで区別することをおすすめします。
資金繰りがしやすくなる
経費の支払いをクレジットカードに統一すると、資金繰りがしやすくなります。個人事業主の報酬は多くが翌月や翌々月の受け取りになるので、経費を先に払って報酬は後からというケースがほとんどです。しかし、事業用カードを作成しておけば支払いを遅らせることができます。クレジットカードの機能としては当たり前ですが、意識しておきたいポイントの一つです。
クレジットカードを分けるデメリット
一方で、クレジットカードを分けると以下のようなデメリットがあります。
個人カードに比べて見劣りするものが多い
選択するクレジットカードにもよりますが、事業用カードは個人カードと比べて還元率や特典などが見劣りするものが少なくありません。カードを作成する際は、どういった用途でカードを使用するかを基準として、作成するカードを選ぶといいでしょう。
また、事業用カードの年会費は、支払手数料、諸会費、雑費として経費に計上できることから、特典が良くなるのであれば年会費が発生するカードでも気にしないという人も少なくありません。
ポイントが貯まりにくくなる
個人カードであれば生活費を含めたすべての決済を1枚のカードで行うことができるため、「年間100万円以上の決済でポイント還元率がアップ」といったカードの恩恵が受けやすいです。
しかし、事業用カードと決済を分けてしまうと決済額も当然分かれてしまうので、今までよりポイントが貯まりにくくなってしまいます。事業用カードを作成するタイミングで個人カードも見直すか、経理処理の手間と還元率を比べてより魅力を感じるほうで決めるのもいいのではないでしょうか。
カードを分ける場合の経理処理についてご紹介
個人と事業のクレジットカードを分けると、どのような経理処理になるのでしょうか。ここからは、個人カードを使用した際の仕訳と事業用カードを使用した際の仕訳についてご紹介します。口座とカードを明確に区別することで、個人口座の処理が不要になる点が大きな魅力です。
個人カードで支払い個人口座から引き落とされる場合
まずは個人カードで消耗品を購入し、個人口座から引き落としが行われる際の仕訳です。記帳を行う際には、個人と事業主は区別する必要があるので、個人カードで経費を計上する場合は形式として、事業主にお金を借りて決済を行ったとして仕訳を行います。購入時は記帳を行いますが、個人口座から個人カードの引き落としについての記帳は不要です。
日付 | 借方 | 貸方 | ||
2022/4/1 | 消耗品費 | 3,000円 | 事業主借 | 3,000円 |
個人カードで支払い事業用口座から引き落とされる場合
日付 | 借方 | 貸方 | ||
2022/4/1 | 消耗品費 | 3,000円 | 普通預金 | 3,000円 |
個人カードで消耗品を購入し、事業用口座から引き落とされる場合でも、消耗品の購入に対する仕訳は個人口座から引き落とされる場合と同じです。しかし、事業用口座から個人カードの引き落としが行われる場合は、個人で購入した日用品についても記帳を行う必要があります。
日付 | 借方 | 貸方 | ||
2022/4/5 | 事業主貸 | 1,000円 | 普通預金 | 1,000円 |
先述したとおり、複式簿記では、個人と事業の口座や支払いが混在していると、税務署へ説明をするために、事業とは関係ない部分まで記帳する必要があります。
事業用カードで支払い事業用口座から引き落とされる場合
最後に、事業用カードで支払った経費が事業用口座から引き落とされる場合の仕訳をご紹介します。
日付 | 借方 | 貸方 | ||
2022/4/5 | 消耗品費 | 3,000円 | 未払金 | 3,000円 |
日付 | 借方 | 貸方 | ||
2022/5/27 | 消耗品費 | 3,000円 | 普通預金 | 3,000円 |
上記のように、事業用カードと事業用口座のみで完結させると、非常にシンプルな経理処理になります。事業主としても非常にわかりやすい仕訳になるので、最もおすすめの支払い方法です。
個人事業主が事業用カードを作成する場合の注意点
事業用カードを作成する際に注意しておきたい点として、法人カードと事業用カード(ビジネスカード)は違うということです。法人カードは大規模の企業に向けたカードで、事業用カードは中小企業や個人事業主に向けたカードとして設定されているものが多く、利用限度額や付帯サービスの内容に違いがあります。
利用限度額を増やしたいときや、空港ラウンジの使用や経理サポート等に魅力を感じる場合は法人カードの作成を検討してもよいのではないでしょうか。
まとめ
ここまで、個人と事業のクレジットカードを分けるべき理由と経理処理についてご紹介してきました。複式簿記を導入すると、個人と事業の口座や支払いが混在している場合、どちらも経理処理が必要になるので、記帳も閲覧も非常にややこしくなってしまいます。個人と事業の区別は年初に行われていることが望ましいので、次年に向けて今から準備しておくことをおすすめします。
おけいこタウンではほかにも、個人事業主に役立つ情報を発信していますので、気になる記事があればぜひご一読ください。
【監修者プロフィール】
並木 一真(なみき かずま)
税理士、1級ファイナンシャルプランナー技能士、相続診断士、事業承継・M&Aエキスパート
2018年8月に税理士登録。現在、地元である群馬県伊勢崎市にて開業し、法人税・相続税・事業承継・補助金支援・社会福祉法人会計等、幅広く税理士業務に取り組んでいる。