【解説】個人事業主にとっての「消費税」とは?免除になる対象もある?
個人事業主(先生・講師)としての活動を始めるときは、所得税のほかに消費税のことも知っておきましょう。活動がうまく進んで売上が増えていくと、消費税の納税義務が生じる場合があるためです。基本的に消費税とはどのような税金で、どのような人が納税義務者なのか、反対に納税義務がない免税事業者とはどのような人かを知り、申告・納税が必要になったら、スムーズにできるようにしましょう。
消費税の基本的な仕組みを知ろう
まずは、消費税そのものについての解説を行っていきます。
消費税を負担するのは消費者、申告するのは事業者
消費税は「負担する人と、納税する人が異なる」ことが特徴です。私たちがお店で買い物をした際、品物の代金と消費税分を併せて支払います。消費税分を預かったお店は、原則として1年分の消費税額を税務署に申告し、納税します。
これから個人事業主(先生・講師)として活動を始める人は、おけいこ事の料金、つまり月謝を受け取ることになります。この場合、生徒さん(消費者)は消費税を支払い、預かった消費税分を申告、納税するのは先生です。
なお、後でも記載しますが、すべての先生に申告と納税の義務が生まれるわけではありません。
先生(事業者)が支払った消費税はどうなる?
個人事業主(先生や講師)も、消耗品や事務用品などを購入する際には、消費税を支払っています。申告し納税する際には、
「生徒さんから預かった消費税額 - 先生が支払った消費税額」 |
を計算します。
消費税の納税義務があるのはどんな先生?
消費税は、個人事業主のすべてに納税義務があるのではなく、納税義務がない免税事業者に該当する人もいます。納税義務があるのは、基準期間(納税義務を判定する年の前々年)の課税売上高が1,000万円を超えている個人事業主(先生や講師)です。
また、基準期間の売上が仮に1,000万円以下でも、特定期間(納税義務を判定する前年の1月1日~6月30日までの期間)の課税売上高または給与等支払額が1,000万円超の場合、納税義務は次の表のようになります。必ず税理士さんなどの専門家に相談して、納税義務の有無を確認してください。
特定期間における課税売上高 | 特定期間における給与等支払額 | |
1,000万円以下 | 1,000万円以下 | 免税事業者 |
1,000万円以下 | 1,000万円超 | 免税事業者 |
1,000万円超 | 1,000万円以下 | 免税事業者 |
1,000万円超 | 1,000万円超 | 課税事業者 |
「開業後の2年間は基準期間が存在しないため、消費税を支払う必要がない」という噂が流れていますが、基準期間が存在しなくても、特定期間が存在する個人事業主(先生や講師)の納税義務は、上記の表の通り判定しなければなりません。
ただし上表のとおり、仮に特定期間の売上が1,000万円を超えた場合にも、特定期間内の給与等の支払いが1,000万円を超えなければ免税事業者となるので、1人で活動する個人事業主であれば課税事業者にはなりません。
また、たとえ免税事業者の場合でも、支払った消費税額が多く、消費税の還付額が発生する場合には、消費税課税事業者選択届出書を提出することによって、開業後2年以内でも自ら課税事業者を選択することができます。
消費税の納税額はいくら? 計算と申告の方法
個人事業主(先生や講師)が、納付すべき消費税額を計算する方法について紹介します。
国に納める消費税、地方公共団体に納める地方消費税
私たちが、日常生活で意識している消費税率は標準税率10%または軽減税率8%ですが、この数値は国に納付する消費税7.8%と地方消費税2.2%(国6.24%、地方税1.76%)から構成されています。
納付すべき消費税額を計算する際は、先に国に納める消費税を計算し、その消費税を基に地方消費税を計算するという流れをとります。消費税額の計算方法には大きく分けて2つの方法があります。
原則課税方式
売上にかかる消費税額から、仕入れや事業経費にかかる消費税額を差し引いて、納付税額を求めます。具体的には、次のような流れで計算をします。
|
簡易課税方式
計算の流れは原則課税制度と同じですが、実際の仕入れにかかった消費税額ではなく、事業の種類ごとに設定されたみなし仕入率を用いて計算した額をもとに、納付すべき税額を計算します。
事業区分 | みなし仕入率 | |
第一種事業 | 卸売業 | 90% |
第二種事業 | 小売業 | 80% |
第三種事業 | 製造業等、建設業 | 70% |
第四種事業 | 飲食店業など
(第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業及び第六種事業以外の事業) |
60% |
第五種事業 | 運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)、ただし第一種事業から第三種事業までの事業に該当する事業を除く | 50% |
第六種事業 | 不動産業 | 40% |
もし、先生が複数の事業を行った場合には、売上を事業の種類ごとに区分し、事業ごとにみなし仕入率をかけて、仕入れ等で支払った消費税額を算出します。
【例】
|
申告の方法
消費税の納税義務がある個人事業主は、申告書を作成し、期限までに税務署に提出しなければなりません。個人事業主の確定申告の期限は、課税期間終了後3カ月以内、つまり翌年の3月31日までです。天災などの影響を受けて、期限が延長される場合もあります。
必要な書類と提出のタイミング
確定申告書以外にも、消費税に関するさまざまな書類を、税務署に提出しなければならない場合があります。ここでは、特に先生としてデビューする人が注意しておきたい書類を紹介します。書類は、納税地を所轄する税務署の窓口に持参するか、郵送で提出することができます。
届出書の種類 | 提出すべき場合 | 提出時期 |
消費税課税事業者届出書 | 基準期間における課税売上高が1,000万円を超えたことにより課税事業者となる場合 | 事由が生じた場合、速やかに |
消費税課税事業者選択届出書 | 免税事業者が課税事業者になることを選択する場合 | 適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで |
消費税簡易課税制度選択届出書 | 簡易課税制度を選択しようとする場合 | 適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで |
消費税異動届出書 | 消費税の納税地等に異動があった場合 | 事由が生じた場合、速やかに |
消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書 | 基準期間における課税売上高が1,000万円以下となったことにより免税事業者となる場合 | 事由が生じた場合、速やかに |
事業廃止届出書 | 課税事業者が事業を廃止した場合 | 事由が生じた場合、速やかに |
消費税課税事業者届出書
基準期間における課税売上高が1,000万円を超えたこと、あるいは特定期間の課税売上高や給与等の支払額が1,000万円を超えたことにより課税事業者となる場合には、速やかに消費税課税事業者届出書を作成し提出しましょう。
消費税課税事業者選択届出書
免税事業者が課税事業者になることを選択する場合には「消費税課税事業者選択届出書」を提出します。期限は次の通りです。
|
免税事業者であっても、課税事業者となることを選択するほうが、節税効果が高い場合があります。具体的には
「仕入等で支払った消費税 > 生徒さんから預かった消費税」 |
となる場合です。事業計画や実際の事業の状況などを踏まえて、税理士さんなど専門家に相談の上で、課税事業者選択届出書を提出するかどうか決めましょう。
消費税簡易課税制度選択届出書
簡易課税制度のもとで納付税額を計算したい場合、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出します。
その他の書類
他にも、納税義務の有無や個人事業主(先生や講師)の希望に応じて、提出しなければならない書類がありますので、国税庁ホームページなどで、ぜひ確認しておいてください。
【例】
|
帳簿の作成及び保存の義務
課税事業者は、取引内容を整然と、明確に記載した帳簿を備えつける義務があります。
帳簿には次の内容を記載します。
|
これらの内容が記載された請求書や領収書については、個人事業主であれば約7もの間、保管する義務があります。
まとめ
消費税は「負担するのは消費者、納税するのは事業者」の間接税です。先生として生徒さんから消費税を預かるようになったら、消費税の申告と納税についても意識しておきましょう。
売上の状況に応じて、昨年まで納税義務がなかった先生が、今年から納税しなければならない場合や、その逆の場合もあります。帳簿をつけて状況を把握し、必要に応じて書類を税務署に届け出るよう、気をつけましょう。
【監修者プロフィール】
服部 大(はっとり だい):税理士/中小企業診断士
2020年2月30歳のときに名古屋市内で税理士事務所を開業。平均年齢が60歳を超える税理士業界では数少ない若手税理士。
単発の税務相談や執筆活動なども行い「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えられる専門家を志している。同年代の経営者やフリーランス、副業に取り組む方々の良き相談相手となれるよう日々奮闘中。
服部大税理士事務所:https://zeirishihattori.com