個人事業主の年金とは?どれに入ればいいの?
個人事業主は原則として「国民年金」への加入義務がありますが、どのような年金なのか詳しくご存知でしょうか。この記事では、国民年金について、そして企業に勤めている人が加入する「厚生年金」との違いはどのような点なのか、という疑問について詳しく解説していきます。
また、国民年金以外の老後の生活資金の作り方についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
※なお、今回の記事では、小規模企業共済についての解説は行っておりません。
個人事業主の年金「国民年金」とは?加入方法や保険料を紹介
「国民年金」とは、日本に住む20歳以上60歳未満の人全てに加入義務がある年金制度です。国民年金に加入していると、高齢になった時、もしくは障害を負った時、または亡くなった後、扶養していた遺族に年金が支払われます。ちなみに、2021年度の国民年金保険料は月額16,610円です。
ここで多く疑問が寄せられるのは、「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」という言葉についてです。それぞれどのような違いがあるのかを確認しておきましょう。
【第1・2・3被保険者の違い】
第1号被保険者
第2号被保険者
第3号被保険者
加入対象
20歳以上60歳未満の自営業者、農業・漁業者、学生、無職の人とその配偶者
厚生年金・共済組合に加入している会社員や公務員
第2号被保険者に扶養されている配偶者
(専業主婦・主夫)
加入制度
国民年金のみ
国民年金・厚生年金
国民年金のみ
保険料
月額16,610円
給与等により異なる
※勤務先が半額負担
負担なし
※第2号被保険者が負担
上表の通り、第2号被保険者のみ「国民年金」と「厚生年金」の2つに加入することになります。老後は国民年金、厚生年金のどちらからも年金が支給されるのです。
なお、2021年4月分からの年金額は以下の通りです。
【2021年4月分からの年金額(月額)】
国民年金(老齢基礎年金)
※満額
月額65,075円
厚生年金
※夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額
月額220,496円
この金額は現時点での年金額です。現役世代の人が年金給付される年齢になる頃には今よりも高齢者が増え、働く人たちが減っている可能性が非常に高いです。そのため、年金額も減る恐れもありますので、今後の年金の動きに注意しておきましょう。
さて、年金の種類ごとの加入方法についても確認してみます。
第1号被保険者:※下記参照
20歳になった時
自動加入。
「国民年金加入のお知らせ」に従い、保険料を払い込む。
別途、年金手帳が送付されてくる。
会社を辞めた時
退職日の翌日から14日以内に住所地の市区町村役場にて年金手帳又は基礎年金番号通知書を持参し加入手続きを行う。
第2号被保険者:勤務先にて手続き
第3号被保険者:配偶者の勤務先にて手続き
勤務先を退職して個人事業主の「先生」になる方は、原則、第1号被保険者の「会社を辞めた時」に該当するため、忘れずに手続きしましょう。
個人事業主が任意で加入できる国民年金基金・iDeCo
ところで、「国民年金だけでは老後の生活が苦しいかも?」と思う方もいるのではないでしょうか。そこで国民年金以外に老後の生活資金を作る方法についてもご紹介します。
国民年金基金
「日本の公的年金は2階建て」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、主に「国民年金」と「厚生年金」の2つに加入する第2号被保険者に当てはまることです。国民年金のみの第1号被保険者には当てはまりません。そこで、第1号被保険者と第2号被保険者の年金額差を埋めるために誕生したのが「国民年金基金」です。
国民年金基金は「加入申出書」を提出すると、2か月ほどで掛金の引き落としが開始されるという仕組みです。
掛金は年齢や性別によって異なります。例えば、年金月額2万円(1口)の場合、20歳0か月の男性の掛金は月7,110円ですが、30歳0か月の男性は月10,300円です。なお、月額掛金の上限は68,000円です。
※終身年金A型の場合
国民年金とは違い、年齢が高くなると掛金も高くなるというデメリットがあるため、加入はなるべく若いうちに検討するとよいでしょう。
また、国民年金基金の口数はいつでも変更することができます。収入が増えてきたら、口数を増やして老後に備えることも可能です。
国民年金基金は、国民年金のようにコツコツと老後資金を積み立てていきたい人におすすめです。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCoとは、私的年金の制度で加入は任意となっています。掛金の金額は自由に決められますが、職業により上限は決まっています。例えば、第1号被保険者の掛金上限額は月額68,000円ですが、第2号被保険者の会社員・公務員は月額12,000円です。
また、運用先は投資信託などですが、何に投資するかは自由に決められます。今までの運用成績を見ながら投資先を決めることも可能です。投資のことをある程度理解できる人に向いているといえるでしょう。
なお、iDeCoの大きなメリットは「掛金が全額控除可能」「運用益は非課税で再投資」という点です。通常の投資の場合、運用益には約20%の税金がかかるため、この点は非常にお得といえるでしょう。
反対にデメリットは、掛金や運用益は60歳まで原則引き出し不可という点です。老後資金形成と割り切って利用してください。
個人事業主は、国民年金基金とiDeCoの併用が可能ですが、合算して月額68,000円が上限となります。
個人事業主が国民年金に加入しなくてもいい場合とは?
個人事業主かどうかにかかわらず、20歳以上60歳未満の人であれば国民年金に加入しなければなりません。ただし、一般論になりますが、個人事業主であっても、以下に当てはまる人であれば、第1号被保険者ではなく、第3号被保険者となります。よって保険料負担が生じません。
・配偶者が第2号被保険者
・原則年間収入が130万円以内
ただし、第3号被保険者になれるかどうかは配偶者の勤務先によって条件が異なります。条件によっては、それほど収入が多くなくても扶養から外れないといけない場合もあります。
どうしても第3号被保険者でいたいのであれば、開業前に配偶者の勤務先に、条件について確認しておいてください。
まとめ
個人事業主は基本的に「第1号被保険者」となります。ただし、第1号被保険者が受給できるのは国民年金のみです。どうしても第2号被保険者の受給できる「国民年金+厚生年金」よりも給付額が少なくなってしまいます。不足分を埋めたいと考えるのであれば、「国民年金基金」や「iDeCo」への加入を検討してみてはいかがでしょうか。
また、個人事業主になりたてなど、所得がまだ少ない人の場合、自分で国民年金に加入せず、第3号被保険者のままでいるという手段もあります。ただし、所得が増えると国民年金への加入義務が生じるため、どの時点で加入手続きをしないといけないか事前によく確認しておきましょう。
【監修者プロフィール】
並木 一真(なみき かずま)
税理士、1級ファイナンシャルプランナー技能士、相続診断士、事業承継・M&Aエキスパート
2018年8月に税理士登録。現在、地元である群馬県伊勢崎市にて開業し、法人税・相続税・事業承継・補助金支援・社会福祉法人会計等、幅広く税理士業務に取り組んでいる。