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アートに失敗はない! 自由に創る楽しみを感じてほしい【冨永ボンド】

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今回は、ご自身の活動をSNSなどでも積極的に発信し、インフルエンサーとしても活躍している「冨永ボンド」さんにインタビューをしてきました。

木工用ボンドを使った「ボンドアート」という独自の画法で絵を描く冨永ボンドさん。パリの画廊に所属し、海外で開催されるアートフェスに参加するなど、国内外で活躍されています。臨床美術士の肩書を持ち、ラジオパーソナリティを務めるなど、その活動は画家の枠を大きく超えています。

「ボンドアート」という新しいアートを生み出した、冨永さんのワークショップの開催をはじめとした活動スタイルや、アートの魅力、そして今後の展望についてお話を伺いました。

ボンドアートとは?

冨永ボンド(以下、冨永) 「ボンドアートは、筆を使って好きな絵の具で自由に絵を描いて、色と色の境界線を黒色のボンドで縁取るという独自の画法になります」

ワークショップで大切にしていること

冨永 「講師として絵を教えることはありませんが、ワークショップは開きます。小学校、中学校、高校、障がい者施設、病院などの施設や、イベント時に、ボンドアート体験をしていただいています」

-ボンドアートには難しい知識や技術が必要ないため、幼少から高齢者まで幅広い年代の方が体験できるとのこと。また、冨永さんは独自のスタイルでワークショップを行われているそうです。

ワークショップはどのようなスタイルで行いますか?

冨永 「ボンドアートには、こう書かないといけないというのは基本的にはありませんし、誰でも描くことができます。好きな絵の具で絵を描いてボンドで縁取るという最低限の描き方だけ説明し、後は自由に描いていただきます。ものすごく自由度の高い画法なので、人それぞれの良さが絵に表れます。

私が描く絵は体験者には書けませんが、体験者の方々が描く絵は、私には書けません。順位をつけることはできないし、比べることもできません。どれもすばらしい作品で、私にとっては、体験者の皆さんが先生だと思って、いろいろなことを学ばせていただいています」

-ボンドアートの体験者は、難しいことを考えず、自由に絵を描くことで、その人らしさが絵に表現されやすくなるそうです。

ワークショップの反応はどうですか?

冨永 「ワークショップの最後に『今日の絵が失敗したと思う人はいますか?』とよく聞くんですよ。すると、3割くらいの人が手を挙げることが多いです。それは多分、自分が思っていたものや理想と違うものが完成したからではないかと思います。

私はイベントに参加して、即興でライブペイントをする画家ですが、今日の作品はあまり上手にできなかったと思う時があります。ですが、加筆修正は一切しないようにしています。その作品を5年10年後に見た時に、二度と書けない良い作品だと思うことが何度もあるんです。描いた時の心境や、誰とこの時何を話していたとか、いろいろな情景が思い浮かんできます。作品が思い出として残っていくんですよね。

学校でワークショップを開いた時には、絵と同じように『皆さんが過ごした日々に失敗はなく、思い出として残っていくんですよ』とお話ししています」

-その時、その人にしか描けない絵がある。冨永さんは、絵の上手さよりも絵を描く体験を大事にされているそうです。

絵が苦手という人も多いのでは?

冨永 「イベントに出てワークショップを開くと、子どもに体験させたいという保護者の方が多いんですよ。保護者の方も体験してみませんかと尋ねると、『私は絵が苦手だから』とか『センスがないから』と敬遠される方が結構います。」

-学生の頃に絵はこう描かないといけないと習ったり、良い評価を受けなかった経験から絵を描くのが苦手だと思い込んでしまう人が多いようです。

冨永 「私は、センスというものは誰にでもあるもので、人それぞれ違うものだと思っています。服や音楽のように、自分が好んだり合っているものが必ずあります。例えば、絵を見る時に、この絵は何だか好きだなとか、あまり好きではないなというのは、センスがないのではなくて、センスが合うか合わないかの問題だと思うんです。

だから、絵だけでセンスがあるかを考えなくていいですよ、と伝えるようにしています。ほとんどの人が、子どもの頃は絵を自由に楽しく描いていたはずです。絵ごころを失っている方にも、ボンドアートを通じて、自由に描く楽しさを再発見してほしいと思っています。

絵を描くことを敬遠している保護者の方も、お子さまが自由に楽しく描いている姿を見て、『やっぱり自分もやってみようかな』と思い直すケースが結構あります。すると、家族みんなで楽しく絵を描いた思い出ができますよね。それがアートのすごいところで、アートができることだと思うんです」

-『センスというものは誰にでもある』という冨永さんの言葉には、アートの力についての強い想いや、体験する人への優しさが表れています。

アートの魅力を伝え続ける

冨永 「私は、作品を評価しようとはしません。特にネガティブなコメントはしないですね。『アートに失敗はない!』が私のキーフレーズです。ただ、描いたものが褒められると誰しもうれしいものなので、自分には描けないその人の魅力を伝えようと声かけはします。

一つだけ、『上手ですね』という言葉は絶対に口にしないことにしています。複数人でワークショップをした場合に、『あなたの作品は上手いですね』と言ってしまうと、それを聞いている人が、『自分が描いたものは上手ではないんだ』と思ってしまいます。

初めてでしか描けない絵もあるんですよ。技術がついて上手になってしまうと描けない絵が。それを大事に思い出に残してほしいです。私は、絵を描く創作プロセスを大切に思っています。だから私自身もライブペイントしかしませんし、私の絵ができあがっていく様を見てほしいです。

美術教育は主に技術を教えていくものですが、これは大事なことで、技術があるからこそできる表現があります。」 ただ、一方で絵ごころを失ってしまう場合もあります。私は技術を学ぶ美術教育の他に、感性教育も必要だと思うんです。

これからの時代は、AIとか機械がもっと発展して、人の働き方や生活が変わってきますから、より創造性が求められてきます。創造性を取り戻すとどんな良いことがあるかということですが、作業に没頭することを『フローに入る』と言いますよね。何かにのめり込んでいる時ってストレスフリーな状態なんです。

ボンドアートに没頭している時にどれだけフローに入っているか。それを機械を使って数値に表す研究をしていますが、それを広めていけばもっとアートが日常の身近なものに感じてもらえると思っています。『より多くの人にアートの魅力を感じてほしい』ということを活動の一つのキーワードにしています。ボンドは身近なもので、誰でも知っています。

『ボンドでどうやって絵を描くの?』という疑問から、アートの入り口の敷居を下げ、多くの興味を持っていただくことができます」

-美術教育で知識や技術を学び、感性教育で創造性を磨いていく。冨永さんは、その両方が必要だと考えておられます。ボンドアートを体験してもらう立場としては、感性や創造性をより大切にされているそうです。

芸術療法のきっかけ

冨永 「作業療法士をしている妻と出会ったことから医療関係に興味を持ちました。医療について調べていくうちに、ボンドアートで医療の支援ができるのではないかという発想が生まれ、『これをやるしかない。これをやっていきたい』と思いました。

そこから、ライブペイントで絵を描く画家としてのスタイルや、『色と色をボンドでつなぐことで、人と人をつなぐ』というコンセプトが固まっていきました。それがボンドアートの役割で、私が最終的に落とし込みたいのは芸術療法です。最初は自分のために始めた絵でしたが、人のために絵を描きたいという想いが強くなっていきました。

以前に、ある学会でボンドアートを体験していただいたことがありますが、先生方から黒のボンドで縁を取っていく作業は一つひとつの形を決めていくもので、これが人に安心感を与えるという言葉をいただきました。私は、ボンドは『人をつなぐ』ものだと思っていましたが、『区切る』という意味もあることに気付かせていただきました。

今目標にしていることは、アートを主体にした認知症対応型デイサービスの開業です。臨床美術という分野がありますが、臨床美術のプログラムが認知症の予防に効果があるというエビデンスがすでに出ています。そのプログラムを取り入れた高齢者のデイサービスを提供したいと考えています」

-冨永さんの場合、ボンドアートは人や社会に貢献するためのきっかけになっています。ボンドアートの体験者が描いた作品を評価しようとせずに、その人の体験を大事にしようとするスタンスも、医療との出会いが大きな影響を与えたそうです。

冨永さんの活動拠点

冨永 「元々は福岡県を拠点にしていましたが、夫婦の生活にふさわしい街として佐賀県に移住しました。そして、気軽にアートと音楽を楽しむことができるまちづくりの拠点にしたいと思って、アトリエを構えました。アトリエにはグッズの販売ブースの他に、BARカウンターやラウンジスペース、DJブースもあります」

これからの展望

冨永 「今後は、アートを主体にしたデイサービスを開業することで、アートの魅力を発信していくと同時に、地域社会の活性化に貢献していきたいと考えています。『アート』『医療』『地域』『世界』をキーワードにして、冨永ボンドとしての活動を進めていきます」

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